神さまに選ばれた理由(わけ)
平成23年の冬、クリスマスも間近な時期、画像の分析をしているところへ電話が鳴った。
山本先生から脊髄小脳変性症の疑いのある患者さんがいるんだけどどうしたらいいかという電話だ。
僕は迷うことなく、1箇月の検査入院と言った。患者さんのMRIもまだ見る前だったが、
検査する以上はちゃんと調べたかったんだ。」
「それで、顔も見せず、こちらの予定も聞かず1箇月なんてなにごとよって、患者を怒らすこ-とになった訳ね」
「そう、10日にしろって患者さんから怒られちゃった。わがままな患者だなと思った。
で、年が開けてその患者が10日の予定で入院してきた。
初めての診察のとき “若いな”がはじめての印象。カルテの51才とはえらい違い。
わがままな感じもっまったくないすてきな患者さん・・・・僕の話を良く聞いてくれて
自分の病状も的確に説明できる人だった。ただ・・・・」「ただ?」
診察の終わりに担当看護師のお腹がすごい音を立てて鳴ったのを憶えてる?」
「おぼえてるよ。すっごいおかしかったけど, 初めての人たちの中で笑うに笑えなくて
我慢してたの」
「なんだそうだったの?笑わないから高ピーな人かと思ったよ
でも翌日、翌々日と検査を進めるうち、素直でかわいいおばさんだと思った。
お化粧を落とし時計を外した澪さんはまるで何も知らない幼い子供のようだった。
この人は普段お化粧で武装して社会人として母として女としていろんな敵と闘ってる。
せめて病院にいるあいだは武装を解いて疲れた心を癒してあげたいと思ったんだ。
だって入院1日目澪さんはこんこんと眠っていたじゃない。」「そうこんこんと。8時から1度も目を覚まさないで翌朝まで。自分でもびっくり・・・・・」
そんな澪さんに会うのは嬉しくて僕もだんだんと345号室に行くのが楽しみになって行った。
澪さんが前に
「朝、病室に入ってくるときの僕の笑顔がいいって言ってくれた
ことがあったろう?あれは澪さんが引き出してくれた笑顔なんだ」
「今思い出してもいい笑顔、先生可愛かったな・・・・・」

スッと真っ直ぐにのびた青緑の竹林が、凛とした佇まいを見せつつ、風に吹かれて“ザワワ……、ざわわ……”と音をたてる。
——それは最も京都らしい風景の1つ。と謳われた竹林も終わり昼になったので私たちは湯豆腐を食べた。
熱い季節に湯豆腐はどうかと思ったがさっぱりしておいしかった。
「これからどこへ行くの?」「午後はぼくの行きたいところ川原だよ
僕が小さい頃遊んだ場所1度澪さんを連れて行きたいと思ってた」
「そうなんだ 秘密基地?お任せするわ」
「京都とは思えないくらいのどかでのんびりしてる」
車に戻り彼がかけた音楽はクラシック「これなら世代を選ばないだろう」「まあ・・・・・」

1時間くらい走ったろうか。. 
嘘のように観光客のいないその場所は本当にのどかな川良だった。
「わーここ京都?どっかの田舎みたい・・・・・・」
「すぐそこは観光客だらけさ・・・ここだけ嘘のようだろう  小さい頃僕が遊んだ場所 澪さんと
いつかきたいと思ってた。川原に降りてみる? 」  
「うん。」
先生は私の身体をしっかり受け止め、座れる場所を探した。
「話の続きを早く聞きたい。」私は先生を急かした。
「どうでもいいけど澪さん太った?」「重い・・・・」
「先生が痩せすぎなのよ。さっき体重全部あずけろって言ったじゃない。」
「そうそう、澪さんは勝気じゃなきゃ。。。。でも
「そりゃ言ったけど、こうも重たいとは・・・・」
「まあ・・・・」「うそうそ・・・・・食欲があるってことはいいことだ。それに僕は女性はふっくらしている方が好きさ」
「ありがとう。気を使ってくれてる?」「いや、ぜんぜん。話さきに進むよ」
「あっ、はい。」「どこまで話したっけ?」「おはようございますの笑顔」
「そうそう、それから澪さんの病室に行くのが楽しみになったんだ」
「それは聞いたよ。」

「そうか・・・それから告知のとき、僕はなるべく淡々と事実のみを話そうと思った。
君は患者だから余計な感情を入れてはいけないと思ったんだ。
小さな診察室で僕の話を聞いて君の顔が青ざめていくのがわかった。
目も虚ろになった。
君の心の中で何が起こってるか手にとるようにわかった。
でも手を差しのべる訳にはいかなかった。
澪さんは患者だから。
君は泣いていた。
泣かしたのはおれだ。
でも受け止めてはいけないと心に言い聞かせわざと
何もないようにふるまった。
わかるだろうか 医者とは辛いものなのだよ
僕は男である前に医者なんだ
医者が患者のつらさを全部受け止めるともたないんだ。
医者も人間だから・・・・
だからなるべくたんたんとした態度が必要なんだ。

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