フェアリーテイル
1.招待状







 「また明日ね」

友人たちが笑顔で手を振るのを見送りながら、夕闇に照らされる道をミリア・レッドフィールドは歩き出した。
閑散とした住宅街は人影もまばらで、夕日に照らされる家や木々がどこか幻想的だ。まるで世界から隔絶されたような感覚に陥って、ミリアは目を細めた。

 「お嬢さん」

不意に背後から掛けられた声に、ミリアは反射的に振り向いた。声の主は太陽の光を背にし、時代遅れのシルクハットをマブカに被った、燕尾服を優雅に着こなした紳士のように見えた。

「お嬢さん」

目の前の男が、もう一度ゆっくりと言った。先ほど感じた不思議な感覚も相まって、ミリアは男の言葉に吸い寄せられるように耳を傾ける。

「ミス・ミリア・レッドフィールド?」

ミス、何て呼ばれたのはもちろん初めてで、ミリアは驚きながらゆっくりと頷く。
紳士は満足そうに頷くと、上質な上着のポケットから何かを取り出した。

「我が主よりお預かりしました、こちらをお受け取りください」

そう言って差し出されたのは、古めかしい封筒に包まれた手紙だった。
そっと受け取りながら裏返してみると、裏には丁寧に真っ赤な蝋で判が押されていた。
ミリアはその刻印を見たことがあるわけでもなく-……まして、ここまで手の込んだ手紙を送ってくるような送り主に心当たりがあるわけもなかった。

「くれぐれも申し上げておきますが-……」

男はそう言うと、ミリアから一歩身体を離した。

「その手紙はお一人でお開きください。中身を読み上げましたら、どうかご決断を。よいお返事を期待しております」
 
 男は深々と頭を下げると、背筋を伸ばして去っていった。
ミリアは呆然とその後姿を見つめながら、途方に暮れたようにしばらくそうして立っていた。




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