フェアリーテイル
後から乗り込んできたサー・ニコライは、満足げに頷くと自分の側にあった窓ガラスを二度ほど叩いた。
それが合図だったのか、小さな振動と共に馬車は走り出したようだった。

「不思議ね、魔法みたい」

幾分か落ち着いてきたミリアがそういうと、サー・ニコライは不思議そうに首を傾げた。

「おや、ミリアお嬢様は魔法をご存知ないのですか?」

「お話の中でなら知ってるけど…夢でも見ているのかしら。鷹がおしゃべりするなんて初めて知ったわ」

「確かに無口な連中もおりますがね。わたくし達は、本来ならばお仕えしております主以外とは、基本的に言葉を交わさないものでございます。ですが、女房子供の前では、こうして普通にしているものも多いですよ」

問いかけとは少し違う答えが返ってきたが、ミリアは少し慣れてしまったのか頷いた。

「サー・ニコライさん、ライネさんという方は、その…あなたと同じ鷹なの?それとも違う?」

どうしても気になる事を聞いておこうと、ミリアは少しだけ身を乗り出して問いかけた。
ミリアとしては、爬虫類や昆虫さえ出てこなければ今更驚きもしないだろうと思っていたところだったが。

「おや、お教えしていませんでしたかな?ライネ様は、貴女と同じ人間ですよ。ただ、少しばかり特別なお血筋ですからね。ミリアお嬢様は驚かれるかもしれませんが」

鷹がしゃべること以上に驚くこととはなんだろうとぼんやりと考えていると、馬車が一際大きく揺れて、すぐに停止した。

「おぉ、着きましたね。さぁ、ミリアお嬢様。外は少し冷えますから、こちらをお召しになってください」

そういって差し出されたのは、綺麗な刺繍のされたストールだった。ミリアはそれを有り難く受け取ると、静かに開いた扉から外へ出た。
 長時間走っていたはずはないのに、景色はすっかり見たことのないものに変わっていた。
鬱蒼と茂る森を背に、暖かな光が漏れ出す巨大な城が見えた。
空が既に暗いことも相まって、その天辺はうかがい知ることが出来ない。どうやら高い塔が立っている事だけは、辛うじてわかる。

「こちらですよ」

サー・ニコライに招かれるまま、ミリアは巨大な城の扉をくぐった。
ここが、彼の言う「ライネ・グリーンゲート」の棲む城なのだろう。

「いらっしゃいませ」

召使なのだろうか。
様々な毛並みの猫たちが、中に入った途端ぴたりと揃ったお辞儀をして出迎える。
一様に揃いのヘッドドレスをつけていて、素直に可愛いと思いつつその前を通り過ぎていく。
サー・ニコライは階段の上へ飛んでいきながら、時々ミリアがはぐれないように欄干に止まって待っていてくれた。
 二階の廊下を何度か曲がり、サー・ニコライはひとつの扉の前でゆっくりと降り立った。
扉の前の止まり木には小さなベルが取り付けられていて、サー・ニコライはそれを器用にくちばしで鳴らす。
すると、綺麗な音が城の廊下に響き渡った。

「サー・ニコライ、ただいま戻りました」


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