るぅの涙
少しだけ早足で歩きながら、るぅはお気に入りの歌を歌い始めました。
“負けないこと、逃げ出さないこと……”
るぅがいつも一人の時に口ずさむ、自分を励ます歌。
るぅには誰が歌っていたのか分からなかったけど、大好きで元気の出る歌でした。

駅にちょっとだけ早く着いたので、るぅはほっとしました。
るぅが乗るのは5号車だから、黄色い線の内側に書いてある5のマークを探せば良いんだね。
5号車の表示を見つけると、引かれた線からはみ出さないように立って、新幹線が来るのを歌いながら待っていました。
 ホームに滑り込んでくる新幹線を見つけると、歌うのを止めてドアがプシューッと開くのを待ちました。
るぅは席の番号を見つけてホッとしました。
るぅの座る席は、窓際の景色もよく見える場所。

少しだけ外を眺めて、リュックを開けて中身を確かめました。
お土産のお漬物、梅干、エプロンにマムに書いてもらった病院までの地図。おばあちゃんへの手紙。
「大事なものは、忘れてない。良かったぁ」

水筒に入った麦茶を一口飲んで、マムが作ってくれたオニギリを一個だけ食べました。
「おばあちゃんはお熱があるから、るぅがお洗濯してお手伝いしよう」
オニギリを食べながら独り言を言いました。

いつもより時間が長く感じるんだもん……。
窓の外の景色にも飽きてきた頃、やっと待ちに待ったアナウンスが聞こえてきました。
「次は仙台、仙台です」
「もうすぐおばあちゃんに会える!」

嬉しくなって元気を取り戻したるぅは、リュックの中に手早く荷物を詰め込みました。
ポーチを肩からかけてリュックを背負うと、出口の近くで待ちながら、
『おばあちゃん、もうすぐ行くよ』

と繰り返し、心の中におばあちゃんを思い浮かべていました。
 ドアが開くと、足元に気を付けながら駆け出しました。

『もう一つの電車のホームも、どこか知っているもん。早く着けば早くおばあちゃんに会えるんだ』

それだけを考えて、走りました。
ホームに着くと、タイミングよく電車が来ました。
乗り込むと、マムに書いてもらった地図を開いて、病院への道を確認しました。
駅に着くと、不安でマムの声が聞きたくなりました。
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