秘密の時間
ひとつひとつ丁寧に言葉を紡ぎだす巧さんは、その頃を思い出しているのか、いつの間にか遠くを見詰めていて、
私はそんな彼の薬指から消えたリングの痕いつの間にかを眺めていた。
それにしても、あんなに知りたかった事なのに、いざ話し出されると、耳を塞ぎたくなる衝動に刈られるなんて。
過去なんてどうでもいいような気もしてくる。
それでも、ほんの少し聞きたい。と思う自分もいたりして、
なんとも複雑な胸の内だ。
「…食事に誘われたんだ。常務から……。
『妹と一度でいいから食事に付き合ってくれないか』なんて。
俺は本当に何も知らなかったから、だから、常務の妹がまさか受付の女の子なんて知らなくて、
常務からの食事の誘いを受けたんだ。
それが、俺と咲季の始まりかな?
本当に最初は恋愛感情どころか、彼女には嫌悪感しか抱けなかったんだ。