秘密の時間
「どこから話したらいいかな?ーー」
時折吹く海風に髪を拐われながら、巧さんの真っ正面に座った私は彼にゆっくりと視線を合わせた。
巧さんも私から目線を逸らさぬよう、ちゃんと見詰めている。
「俺がバツ1なのは知っているよね?
実は、城田常務の妹と結婚してたんだ。
……恋愛結婚じゃあないんだ。だけど政略結婚でもない。
当時受付をしていた咲季〈サキ〉に見初められてね、俺はあまり彼女には興味もなかったが、付き合う事になったんだ。
だから最初は乗るきじゃあなかった。
咲季の方が歳上だったし、まだ入社したての頃だったからそれこそ仕事に集中したかったしね。
だから受付に座る彼女に声を掛けられても、軽く受け流していたんだ。
それに、彼女がこの会社の社長の姪に当たる人物だなんて知らなかったしね、
普通の一般の子だと思ってたから、あまり相手にもしなかったんだ。
けどそれが、咲季にしては面白くなかったんだろうね。
暫くしたら彼女からは声を掛けられる事もなくなったけど、
その代わり、当時俺の上司だった城田常務に呼び出されるようになったんだ」