シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「そういえばさ、ボクがチャリ漕いでいる間、一体何があったんだい? 師匠は何に奥義出したのさ? 見えない敵にかい?」
不意の由香ちゃんの陽気な声は、重苦しくなった空気を変えようとしたためなのだろう。
思考を中断させたあたしは、苦笑交じりに言った。
「犬もどきの奇っ怪な…イチルの"ねえさん"。昔、イチルが殺したはずのね」
軽い口調であたしが言うと、
「「「え!!!?」」」
驚いた顔をして、三人は口を揃えた。
「アレと目が合った時、思い出したんだ。あたし今まで夢だと思っていたのは、多分昔、実際起きたことなんだね。あたし昔、やっぱりオッドアイのイチルと会ってる。
そして何処かに連れられて、何かに怒り狂ったイチルが、"ねえさん"と呼ぶアレを殺したの。首絞めて、そのまま頭打ち付けて。
状況は曖昧だけど、あの"ねえさん"は記憶ある。生きてたのかなあ。もしくは…蘇った? 何の為に今現われたのかなあ?」
「黄幡一縷の…姉? しかしあの姿は…」
桜ちゃんは強張った顔を玲くんに見せた。
「姿だけで化け物だとは言えないぞ、桜。理由あって"そんな姿"になった者達を、僕達は何度も見て来たじゃないか。まあ…正直、姉さんというのは意外だったけどね」
「しかもさ、多分だけど…そこに連れられる時に、あたしイチルに"イチル人形"プレゼントしてたんだよね。ほら、あの見知った人間に化ける、へったくそな出来のオッドアイ人形よ」
「そういえば、朱貴曰く…その人形を使って、"約束の地(カナン)"に追いかけて来てたんだっけ、"ディレクター"」
由香ちゃんの言葉に、桜ちゃんは怪訝な顔を向けた。
「ディレクターって…黄幡計都ですか? 彼が式神使い?」
「え、"約束の地(カナン)"に来てたの!? ってか、イチル人形使ってたの、計都!? 義兄だから、貰ってたのかなあの人形。というか…なんであたしの恥さらすようなものを…。他になかったのかな…」
あたしはぶちぶち独りごちた。
「あれ、葉山も神崎も話には参加してなかったっけ?」
あたしと桜ちゃんが頷くと、玲くんが朱貴の言葉で説明してくれた。
――なかったか? オッドアイの…式は。本物のように…お前達を惑わせなかったか?
はい、惑わされました。
――"ディレクター"の脚本で沈んだ"約束の地(カナン)"に、乗り込まないはずはない。ま、沈む前には退散しただろうが。
沈められました。
それは計都の計画だっていうの?