シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


情報屋と俺との間には、丸く抜かれた木目調の…喫茶店の床がある。

これに乗ってこの空間に来たらしい…そんな不可思議な状況証拠でもある。


正直俺は、喫茶店で意識が薄らいでからの記憶がなく、此処に至るまでの具体的な状況は判らない。

普通に考えて、この丸い床が俺達を運んだと考えるには、些か無理があるだろう。

ただしそれは、情報屋があくまで普通人であるならばの話。


緋狭さんが認めた案内人(ガイド)であり、破天荒過ぎる五皇が一目置く存在であるならば。


それもアリだと、黙認するしかない。


――坊、私を信じよ。


意味ありげな丸い板。

これだけが、この不可解な空間に存在する理由は何だ?


………。

この床の木目模様…?


俺は表面に手を触れると、風の力を用いて裏にひっくり返した。



「櫂、どうしたよ?」


隣で煌が、不可解な顔をして俺のやることを眺めていて。


………。

間違いない。


「こっちが表だ」

「あ?」


「今まで、俺達が上から踏み付けていたものは、喫茶店で踏み付けていた床の"裏側"だ」



煌が白目で考え込んでいる。


そして――


「つまりよ…?

上や横の壁に異常がなかった。

だとすれば…


――下か!!!?」



俺は煌の言葉に呼応するように、木目調の円板を足で横に蹴飛ばし、視界から遠ざける。



今まで板があった場所には――


穴が…開いていた。


「待て待て!!! 下が出入り口なら、下から上に上がってきたのか!!? 俺達…あの木の円盤に乗って、下からエレベータみたいに!!? だったら此処、天界か!!? それとも…実は死んでいて、天国とか!!?」


「え!!!? だとしたらワンコ!!! 裏世界って、あの世!!?」


目の前で真っ青な顔をする2人。


俺は薄く笑って首を左右に振る。


「違う。だから逆なんだ。

『リバーシブル』。


この空間では――

ひっくり返ることに意味がある」


「「は!!!?」」


煌と翠は同時に声を出した。


俺の目に映る物…

何処までを信じ、何処までを弾くか。


――己の"心"を信じよ。心は嘘をつかぬ。


俺の心は――
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