シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「俺達の動きを見る限りにおいては、常識的な物理的法則は生きているみたいだ。"約束の地(カナン)"の地のような、重力に逆らうような、強制力は働いていないように思える。

だとすれば――

俺達は重力に従い、地上にある喫茶店から、地下にあるこの場所に落ちてきた。下から上に上がったわけではないんだろう」


そう、思った。


「だったら!! 何で下に穴開いてるよ!!」


「実際の動きは、俺も寝ていて判らないけれど、回った…んじゃないか、この部屋が。俺達が…裏側の"上"に居たのは、情報屋が…壁と床に押し潰されないように"移動"したのだと…思うんだが」


そうとしか床が裏返しになる理由が判らないんだ。


「回る!!!?」


驚いた声を発する煌と翠の横で、情報屋は薄く笑っていた。

否定とも肯定とも言いがたい、嘲笑を浮かべたような顔。

それは…どことなく氷皇や榊の表情にも似ている。


全正解では…ないのかもしれない、そんな予感もする。

ただ外れてはいないはずだ。


補足すべき事が…まだあるのか。


それとも――

そう思わせることがトリックなのか?


………。


試されながら…誘導されているのか?


何に?


俺が目を細めた時、情報屋が口を開く。


「……。ウチが、自分で丸い床ひっくり返した可能性及び、裏返ったのが"幻"言う可能性は?」


俺の視覚を否定にかかっても、"リバーシブル"に意味があるということは、否定していない。


ならば――


「この…下に拡がる穴を信じて、仮に俺達が下から上に来たとして。お前が丸い床をひっくり返すことが"リバーシブル"の意味ではないだろう。 

表世界から持ち込んだお前の小道具が幻ではないのなら…表世界の床だって意味は同じ。

というか、そんな床自体…幻であろうが本物であろうが、大して重要性はない」


――坊、看破せよ。


「重要なのは床ではなく…それが隠していた穴の方だ。

穴を作ってこの場の内部に入った丸い床が、その穴を隠せたという状況自体、不自然極まりない。

だとすれば…」


情報屋の笑い方が、愉快そうなものへと変わる。


「だとすれば。

その穴こそが脱出の鍵――」



「うわ、何だあれ!!!」


その時、翠が裏返った声で叫んだんだ。

< 112 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop