シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
小猿は口を半開きにして、薄目になっている。
集中モードに入っているらしい。
それだけではなく、小小々猿もまた同じような顔をして動かない。
………。
その顔はしかもダブルで気味が悪いから、人としても神としても猿としてもやめた方がいいと思うんだけれど、櫂はそれに対してなにも言わないから、俺も黙っておく。
要は、小猿が成長すればいいのだから。
どんな顔の猿に化けようと、今欲しいのは確かな力だ。
強くなりたい思いが真剣だからこそ、櫂の言葉を素直に受容出来る小猿。
そして、抽象的な櫂の言葉を実行に移して"訓練"しようと思えるあたりが、実はこうしたもののセンスに長けている証拠なんだろう。
俺なんて、緋狭姉にイチから説明を受けて、更に理解出来るまでに時間がかかり、何度怒れる緋狭姉に鍛錬科目を追加されたことか。
――理解して即座に出来るのなら、まず即座に理解せよ!!
俺に理解させる為に声がガラガラになるまで喋り続けた緋狭姉は、一度で偃月刀を顕現させてみせた俺を見て、目を潤ませた。
――お前には、これからは体で教えることにする。
禁断の師弟愛かと驚いた俺に、盛大な回し蹴り食らわせた緋狭姉は、それ以来…圧倒的な力で俺の体に"理解"を刻み込んできた。
俺に小猿ほどの理解力があれば、もっと和やかな鍛錬風景になっていただろうに…。
緋狭姉…。
ぶるぶると頭を振り、今は先にすべきことがあると頬を叩いた。
小猿が必死に"訓練"している間、俺は話題をZodiacに戻した。
ひとつ、どうしても疑問があったから。
「なあ……櫂。大体"約束の地(カナン)"にZodiacってなんだよ? それだけで"はあああ!!?"なのに、なんでスクリーンの向こうに居たのがZodiacよ!!? あいつら、桐夏の卒業生だろ!!? 生身の人間だろうが!!」
忌まわしきZodiac。
今まですっかり忘れていた奴ら。
「幾ら目に頼るなって言ってもさ、Zodiacだということが納得いかねえ。あいつら何者よ?」