シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「歌って……動け、ですか?」
桜が神妙な顔を、右側に傾げた。
「動けっていうことは、フリつきで踊れっていうことかい?」
「え、由香ちゃん……この歌にどんなフリが必要なの? リスの動きってどんなの?」
「うーん、例えば、歌に合わせて行進してくるとかさ」
「二本足歩行のリスみたいに? ああ、なんだかイメージわくね」
………。
リスは二本足では歩かない。
間違った認識が常識としてまかり通りそうな勢い。
「あたし、やってみる!」
どさくさ紛れて立上がろうとした芹霞を僕は見逃さず、紙に向けたままの顔を上げずして、伸ばした片腕を芹霞の腰に巻き付けて、その動きを制して、元の位置に戻す。
嫌だ。
話し合いで解決出来るまで、逃がさない。
逃げようとしているのが判るからこそ。
その意思を目に込めて芹霞を見ると、しゅんと項垂れてしまった。
僕の心がその様子に沈み込んでくる。
少し前までは、僕に抱きついてきてくれたのに。
真っ赤な顔をして恋人を主張してくれたのに。
この変わり身の早さは、どう考えても……櫂のことを思い出してきたからの、無意識の所作に感じて仕方が無い。
櫂のことは思い出して欲しいと思っていたことは事実だけれど、こんなに早く訪れる破綻に惑う僕は、櫂への嫉妬を募らせる。
櫂への恋心を思い出していない芹霞。
それでも、芹霞の意思は僕を心から追い出そうとしている。
僕は――
僕は一体なに?
櫂の記憶の蘇生が、こんな場所で、こんな急だとは想定していなかった。
いずれくる恐怖のような怯えはあったけれど、もう少し先のことのように思えていたんだ。
直前までの僕は幸せを感じていたから。
僕との関係は始まっているのだと、僕に対する想いは育っているのだと……僕は夢見心地だったから。
その最中に、芹霞は櫂を思い出そうとした。
思い出せないことに心が悲鳴を上げていたのだと、苦悶する姿を見た時、僕は居たたまれない心地になった。
そこまで芹霞を追い詰めたのは、紛れもない僕。
あんなに苦しんでても、櫂を思い出そうとするのなら。
それでも思い出せずに苦しんでいるというのなら。
そこには芹霞の心理的な……そう、僕を選んだという罪悪感があるのではないかと思ったんだ。
そして僕としても、櫂に対して罪悪感がある。
正々堂々と、芹霞を賭けて勝負をする為には、僕はケジメをつけねばならなかった。
ここまで芹霞が苦しんでいるのなら、一度、芹霞との関係を白紙に戻した方がいい。
芹霞が落ち着いた時に、そこからまた始めよう。
大丈夫、僕達には育っている絆がある。
芹霞を助ける為に――。
――夢を見させてくれて、ありがとう。