シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


このまま本当に突き進んで良いのか、そんな疑問が首をもたげている。

いいはずだ。

小猿の作り出したキンピカ小小々猿がそう言ったのだから。

だけど頭の中には、櫂に語りかけていたチビサクラの言葉がリピートしている。


――剣鎧は……いつもあんな感じぞえ?


猿の楽園の上下関係もその実態も俺はよく知らねえが、小小々猿を"剣鎧"という名で呼べるチビサクラは、小小々猿のことを俺よりよく知っているに違いねえ。

そいつが小小々猿に疑問を抱いた。

主人たる翠が命じれば、りすと三体でどじょうすくいまでする、とんでもねえ式神だが、基本古めかしい頭はがっちがちだ。

どんな冗談でも本気で受け取る、冗談がまるで通じねえ融通のなさもある。


主人命の小小々猿は、小猿が受入れた者は無条件に信じる。

小猿が警戒しねえ者には、俺であれ櫂であれリスであれ、小猿代理で小小々猿を動かすことが出来るのも確か。

だからこそ、場を仕切る櫂の言葉に耳を傾け、この状況下。

小猿もそうだが、小小々猿も身内には滅法甘い。

もしも。

それを利用されて、小猿が受入れた者だと信じ込まされたら、小小々猿はその者の声にも耳を傾けるだろう。


――……揺れておる。翠殿と……別の術者との間に。


別の術者とは、七瀬周涅だと思う。

あの胡散臭い顔を見ただけでも倍増しになる程、腹立たしい男。


力だけではなく口まで達者な男が、もしも密かに小小々猿に接触し、小小々猿を使って俺達を誤った道に導いていたとしたら?


チビサクラに指摘うけるくらい、小小々猿の動きがトロくなっていたりと、おかしさを見せていたのは事実と思えば、チビリスの最後の仕上げは、俺達の首を絞めるものにはならねえだろうか。

俺達は、周涅の術を破る他の術を知らねえ。


「櫂……。お前は嫌な予感を感じてねえのか?」


櫂は一度信じた者は、盲目的に信じ抜くところがある。

身内から裏切り者が出るとはあいつは、想定していねえはずだ。

むしろ小小々猿は、櫂を助ける為に裏世界の連中にひと言添えたその事実を、櫂は恩義として決して忘れはしねえ。


俺達は、小小々猿を信じていいのか?



その時――、


「見えたねッッ!!」


頭上のチビが叫ぶ。


「九」と書かれた最後の石碑のおでましだ。
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