シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

ああ――

音楽は鳴っているのに耳に入らないのは、それだけ余裕がない証拠なんだろう。


重さの差。

体格の差。

鍛え方の差。

反応の差。

考え方の差。


そうした差分の変化に対応して、自分ペースを掴むことが出来ねば、ただ相手に振り回されて終わるだけ。


これでは不協和音。


自分の音を奏でることが出来ない上、相手の音を聞いて順応も出来ない。

これは致命的だ。



俺達は…考えすぎている。

連携が上手く行かぬことに焦りすぎている。


"次こそは大丈夫だ"と気負えば気負う程…"本当に次は上手く行くだろうか"という、延々と答えの出ないパラドックスの環に囚われていく。


悪循環だ。


鎖は――

肉体を縛る物理的な拘束という以上に、精神を悪しき方に強く縛っている…そんな意味合いを持ち始めてしまったんだ。


焦りが不安と躊躇を生み、そうした負の思考が肉体の動きを制限し…そして3秒ルールに捕まる。


鳴り続けるホイッスル。

減り続ける首飾り。


今ではロクに動くことすら出来ない。


これでは駄目だ。

息を合わせないといけない。


鎖で縛るべきは、3人の心だ。


「音楽を聴け!! タイミング合わせろ!!!」


3秒で全員が移動する。

まずそこから始めないと。


しかし――


ピーッッ!!!



「今、3秒で色触ったよな!!?」

「違うの!!? 俺遅かったの!!?」



ピーッッ!!!



「今はばっちりのタイミングだったよな!!?」

「うん、今はぴったりだったぞ!!? 何でだ!!?」



「………」


勝手が掴めないのか、どうも上手くいかない。



現行3秒ルールに沿って、きちんと移動出来たはずだったのに、何でホイッスルが鳴るのか判らなかった。


流れる音楽のテンポに乗れたはずだった。

個々の体内時間がずれていたというわけではない。


耳から聞こえるテンポがずれるはずはないというのなら。


…違う理由でホイッスルがなったとしか思えない。


それとも――

俺の思考力も…焦りでおかしくなっているのか?

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