シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「しかし、よくあの屋敷を抜けられてきたね。大乱戦になるんじゃないかって、ボク…結構ドキドキしてたんだよ、実は。

しかもさ…紫堂の頂点に居る当主の部屋に、猫が突撃して次いで怒ってドカドカ乗り込んだのは女2人。猫が攻撃して、女が説教して。今思えば笑い話だけれど…怖いモノしらずだったよね、ボク達」


そうあの時。

当主達に斬り付けたクオンが、来いとこちらを向いたそれに真っ先に反応したのは芹霞さん。次は遠坂由香で。


私は…猫が戦う姿に、半ば呆然としていて。

気づいた時には、芹霞さんの怒鳴り声。

そして由香さんは…


「由香さん、何か…懐に入れませんでした?」

「あ、忘れてたよ」


遠坂由香はポケットから、古ぼけた1枚の写真を出した。


「あの部屋の机にあったんだけれど、これ1枚がやけに違和感あって意味ありげで…。思わず」


それは小さな…黒髪の少女が笑っている姿だった。

あどけない笑い顔の可憐な少女。

7、8歳だろうか。

この色褪せ具合は、かなり年数は経っているはずだ。


誰だろう?


「あたしも見たい」


そこに芹霞さんがひょいと覗き込んで。


「うわあ…凄い可愛い子だね!! ん…何処かで見たことあるような気もするけれど…でもよく考えればあたしが知るはずもないや。勘違いだね。当主の子供かなあ?」


だとすれば…


「紫堂の妹?」


櫂様が当主の子供であれば、の話。


「まあいいや。後で師匠に聞いてみよ。百合絵さんでもいいしね。しかし…よく抜けてこれたよなあ…」

「紫堂を抜けられる…おかしな状況が幸いしたんでしょう、恐らく」


私は答えた。


紫堂本家は甘くない。


紫堂本家に何が起こっていたのか。

きっとそれを知るのは朱貴なんだろう。


そして――


――あはははは~


胡散臭い、あの男も。

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