シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

「…抜けさせたい人達が居てくれたから、きっと上手くいったんです。恐らくこれは…必然」


「これから…師匠どうなるんだろう」


「……判りませんが、戦うのみ、です。櫂様が戻られるまでは…私が玲様をお守りいたします。もう…あんなことはさせません」



とにかく今は…

目覚めた玲様に伝えて上げたい。


芹霞さんは…"それ"を聞いても、変わりません。


玲様。

何処までもあがいて戦っていきましょう、と。


朱貴に指示を受けた百合絵さんが連れて来たのは…広尾の、七瀬紫茉のマンションだった。


「え…でも此処、紫茉ちゃん…周涅と暮らしているんだよね。いいのかな、周涅…味方ではないでしょう?」


戸惑うように芹霞さんが呟いた。


「あの男は…暫く動きません、とのことです」


百合絵さんは無表情で答える。


私が玲様を抱き、百合絵さんが七瀬紫茉を抱き…そして百合絵さんは、ポケットからカードを取出して、ドアを開ける。


朱貴は…鍵まで預けたのか。

余程の信頼だ。


「鍵じゃないんだ、ここのドア…。オンボロ神崎家とは違うな」


芹霞さんの首元では、まだクオンが寝ているようだ。

クオンは芹霞さんから離れようとしない。


「勝手に入ってごめんね、紫茉ちゃん!!!」


そう合掌してから、部屋の中に入った芹霞さん。


「あれ…充電器がある。丁度あたしの携帯、充電切れ寸前だったんだ。ちょっと充電させて貰おう」


芹霞さんは鞄の中から、携帯電話を取りだして充電を始めた。


この部屋にきたのは…煌と皇城翠と来たのが最後だ。


そして朱貴と共に…七瀬紫茉救出に、情報屋に会いに行ったんだ。


それはつい最近のことなれど…遠い昔のように思ってしまう。


あの時、煌と共に…玲様の結婚話を破談したくて七瀬紫茉救出を約束し…結果それを反故にして朱貴を置き去りにして、更にはその朱貴に助けられて"約束の地(カナン)"に行き着き、そこで櫂様を見殺しにして…紫堂に戻った。

玲様だけでも守らねばならぬ中、玲様の心を抉るような状況に、私は為す術もなく…ただ見ているだけで。


猫と素人女2人に先を越され、その奇抜案にただ流されるまま。

媚薬で苦しむ玲様を救ったのは、その玲様に組み敷かれていた芹霞さんで。


慮外な場面に心が追いつかなかった私の身体は、まるで木偶の坊のように動くことはなく。

最終的に私は、朱貴を人身御供のように捧げ、逃げてきた。


私は…結局、一体何をしてきたんだ?

< 338 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop