シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



「………。芹霞…聞いてる?」

「うんうん、聞こえてるよ」


玲くんが…愛くるしい小動物に見えてくる。

母性本能をくすぐられる。


「僕の心…伝わってる…?」

「うんうん」


玲くんの口調が真剣であればある程…そのぷっくりのリスのお顔とのギャップが激しすぎて、ますますリスの食事中としか思えなくなってくる。


ああ、このリス…可愛すぎる。

どうしてくれよう、この生き物。


これがいつもの麗しの玲くんならば、笑う余裕がない程ドキドキしてKOだろうけれど…今は…ごめん、玲くん。あまりに可愛すぎるから、半分で聞くことにするよ。


その間も、もごもご言葉は続いていて。

リスがまだどんぐりを齧っている…そんな錯覚から抜け出せない。


「"うんうん"が凄く気になるけど…こんな可愛すぎる芹霞が…傍に居る現実っていうのだけで満足するよ。こんなに可愛い芹霞が僕のこんな近くで…。

……。……。やばいな…。

この現実は…結構…辛いかも。いっそ夢なら…手を出せるのに。流石に今は…。……。意識したらなんだか余計。……。ん~…。頑張れ、僕の…理性。痛みで理性を抑えろ。ううっ…頬が痛いっ…ん~…」


何か辛そうなもごもごになっている。

前半の言葉は聞こえなかったけれど、最後だけはばっちり聞こえた。


そこで現実に返った。


どうやら…理性を無くすほどほっぺが痛いらしい。

はうう…ごめんね、玲くん。

可愛いリスなんて、勝手に思ってごめんなさい。


罪悪感で泣きそうになっていた…丁度そんな時だった。


パチパチパチ…。


そんな拍手の音が聞こえて、顔をねじ向けてみれば。


「師匠~良かったね~…ぐすっ。うんうん、よかった!! 折角此処まで漕ぎ着けてこれからだという時に、あんな…不条理な状況が襲ってきて、更には腐腐腐以上の…頭抱える厄介なすれ違い起きたら、どうしようかと思ってたんだよ、ボク…」


そんな…鼻を啜る由香ちゃんと。


その隣に微笑んで現われたのは。


「紫茉ちゃんッッ!!!!」


愛しの紫茉ちゃんだった。


あたしは片手を大きく、彼女に向けた。


「紫茉ちゃん、気がついたんだね!!!?」


その顔には、クオンの赤い足跡がついている。


「芹霞!!!!」


紫茉ちゃんも歓喜の顔で、両手を広げてこっちにやってくる。


あたしも、あたしも!!!


起き上がって、感動の再会のぎゅうをしようとした時。



びぃん。


行けない。



「………」


玲くんと…繋がれたままの手。



鳶色の瞳が、じっとこちらを見つめている。



「玲くん…」

「……やだ…」


ぼそっ。


玲くんは、ぷっくり拗(す)ね顔で…手を離してくれる気配もない。
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