シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「玲く……」

「………やだ」


ぼそっ。


詰るような目を向けて、にぎにぎと自己主張を始める玲くんの手。


「……玲くん…」

「………。……っ」


また片手で頬を押さえながらも、繋がれた手に籠もる力は強く。


「紫茉ちゃん…」

「芹霞…」


何て近くて遠い、もどかしい距離。


あそこに…紫茉ちゃんが居るのに…


…行き着けない。


「芹霞、無事で良かったよ…」

「紫茉ちゃんも…よかった…」


にぎにぎ。

にぎにぎ。


"僕は此処に居る"

"絶対離さないからね"


「……紫茉ちゃ…」

「僕は……紫茉っていう名前じゃない」


ぼそっ。


むくれている。

小さい子供みたいに、玲くんがむくれている。



「むふふふふふ」


堪えきれないという由香ちゃんの声が聞こえてくる。


「ん~!! むふふふふふふ」


ドンドンと足踏みをしながら、両手で口を押さえても…尚も意味ありげな笑い声を響かせる由香ちゃんは三日月目で。



「ははははははは」


次に笑ったのは紫茉ちゃん。


紫茉ちゃんまでどうしたんだと思ったら。


「玲…お前、顔…どうした…?」


ぷっくり玲くんのお顔に気づいた紫茉ちゃんが、1つに束ねた長い黒髪を揺らしながら…その笑いを止めることなく。


「あはははは。リス?」


かなりドツボに嵌ったのか、ひいひいと涙まで流して蹲(うずくま)り、床を拳で何度も叩き付けて、それでも笑いは止らない。




「僕の…顔…? 

何が…リス…?」





しまった!!

玲くんに余計な不信感を与えてはいけない!!



「ナンデモナイヨ!!

レイクンハキレイナママダヨ!!?」


「芹霞…何で片言…?」


玲くんが益々不信感を募らせて。


その時。



「フギャーッッ!!!」



水に濡れたままのクオンが猛烈な勢いで部屋に飛び込んできて、更には玲くんと繋いだままの手を目にすると、急ブレーキをかけたかのようにその直前で止まり、そして…。


「………。芹霞、この猫…」

「うん。刀咥えて戦ってた猫」


「なんで、ピンク色? 白色のふさふさじゃなかった?」


「……い、色々ありまして。今、お風呂の途中で中間色みたい。あははは。だけど…おい、クオン。…痛い、痛いんだってッッ!!

何であたしの手をカジカジする!!」


あたしを紫茉ちゃんの元に行かせようとしてくれているんだろうか。

…好意的に考えれば。


クオンは懸命に、恋人繋ぎをしている手の指を囓って解こうとしている。

何故…あたしの指限定だ?


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