シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

強靱 櫂Side

 櫂Side
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俺にとっての一番の禁忌。


そして――

原点でもある。


「お父さーーーーーーんッッ!!!」

「お母さーーーーーーんッッ!!!」


見慣れることなどない。

涙が尽きぬことはない。


目の前で展開される芹霞の心臓が抉られ潰される様は、俺の心臓をもぎ取られるような大ダメージであると同時に…横須賀でのあの衝撃が重なって。


繰り返される悪夢。

巡回する苦痛。



崩れ落ちる芹霞が最期に笑う。


――櫂、泣かないで…?



好きで好きでたまらない芹霞が、

俺に気遣い笑って逝く姿は…

これ以上にない恐怖と絶望で。


骸を抱きしめ、両手を芹霞の真紅に染めながら…

ただ縋って泣くしか、あの時の俺には出来なくて。


あの無力感。

あの非力さ。


芹霞に守られることで愛を確かめていた俺は、それではいけないことを悟ったんだ。


芹霞の為に出来ること。

俺だけが出来ること。


しかしその答えが出なくて。


それを導いたのは…緋狭さんだった。


今の俺はまだ…力が足りない。

悪夢を断ち切る強さが足りない。


その現実を思い知らせる過去の幻影。


俺は――

心を弱らせる為に今在るのではない。


このまま、傷を抉られているのをただ見ているだけでは、昔と何1つ変わらない。


悪夢を断ち切るには勇気を。

前に踏み出す強さが必要なんだ。


緋狭さんに諭された。


人には…贖うチャンスがあると。


緋狭さんによって、煌の記憶はなくなっていた。

ただ攻撃性だけは残っているようで。


――煌をあのまま"殺人鬼"にすれば、坊も悪夢から逃れられぬ。

――もしもあの悪夢から抜け出したいのなら…


緋狭さんは言った。


――煌を…真の人間にせよ。

と。


煌。


――坊。私は…煌を0から育て上げようと思っている。


正直――

緋狭さんからお前のことを初めて聞いた時、怨んだよ。

何で緋狭さんが、お前を育てようとしたのか判らなかった。


俺は万能ではない。

強くなろうとしても、人間という根底は変わらないんだ。


だけど…

悪意は連鎖する。


連鎖された悪意は、新たな悲劇を呼ぶ。

ならば俺の悪意は、消せねばならない。


だから俺は…如月煌という1人の人間と向き合おうと思った。

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