シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「お~そやそや、ひーチャン印のついった、やってはるか~?」


そう情報屋が聞いた時、煌がぴょんぴょん飛び跳ねた。


「俺達にはそんな暇なかったの!! おい、チビリス!!! 人の頭に勝手に居座って…此処は巣じゃねえよ、降りれよおいッッ!!」


「煩いな。ぬくぬくの芹霞の胸元に入れなくて凹んでいるんだから、お前もそこん処考慮しろよ!!!」


「は!!!? 凹む!!!? どこがだよ!!! それに何でぬくぬくの胸元に入ろうとするよ、お前!!?」


「いいじゃないか!!! 僕は正当に、ちゃんと手段を踏んで、カリカリした胡桃(くるみ)を捧げて芹霞に求愛しているんだから!!」


「何当然のように威張り腐るよ!! リス事情なんて知らねえよ、ここは人間界なんだよ!! それなら俺だって、手を出したいのをひたすら我慢して、ちゃんと求愛してるよ!!!」


「発情犬の求愛と一緒にするなよ!!! 僕の求愛は、胡桃に誓った神聖なものなんだ!!」


「お前芹霞にエロいことばかりせがんで、挙げ句人前で悶えていたくせに、何が神聖だ!!!」


「芹霞との愛を堪能していただけだろ!!? 求愛の胡桃まで取りだして、芹霞に格好良いとこ見せてお前に勝ちたかったのに…胡桃がなくなっただけで負けちゃった。最悪だ…。僕、これからどうやって求愛すればいいのか…」


「しなけりゃいいだろ!!!」


「しくしくしく…」


煌の言葉など聞いちゃいない小リスは、小さい両手で顔を覆うと、項垂れてさめざめと泣き出してしまった。


「俺…すっげえ疲れたんだけど」


煌まで項垂れた。

上で泣いているリスを落さないように気遣っている角度で。


「じゃ、疲労回復に…このアメ玉あげますわ」


ピンポン球ほどの大きさのものを取出したのは情報屋。


「何だ、これは」

「疲労回復のアメ玉や」


いかにも胡散臭い物体で、馬鹿にされたと思った煌が大きく顔を歪ませているのが目に入った。


「誰がこんなでかいアメ玉舐めるってよ!!」

「多分…あそこの玲はんは…「胡桃!!!」


ぴょこんと、煌の頭から飛び跳ねてきたリスが、聖の手から大きなアメ玉を奪い取ると、地面で丸まってカリカリ囓り始めた。


「僕の…求愛の胡桃だ。芹霞への胡桃だ。よかった。またこれから求愛できる。嬉しいな、嬉しいな。よし、芹霞に会うまで、愛情込めてカリカリしてなくちゃ…」


カリカリカリ…。


「玲はん…ほれ、まだありますさかいに…」

「ありがとう。僕、頑張って芹霞に求愛するからね」


カリカリカリ…。


確かに…疲労回復はしているようだ。


求愛…。

少しばかりいらっとするけれど、相手は小さなリス。

平常心、平常心。
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