シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


湯上がりして桜色の芹霞の肌。

石鹸の香りに僕はくらくらして…。


こちらの心など露知らず、芹霞は悲愴な顔をして、更に僕に詰め寄ってくる。


「玲くん、玲くん!!!」


ちょっと指を動かせば…多分、このタオルははらりと落ちる。

今まで落ち着いていた桜の顔が、また固まっている。


「ちょっと見てここ!!!」


そう、息巻く芹霞は、僕をベッドに押し倒して馬乗りになった。

本当に、指先で触ればひらりと取れそうなバスタオル…。


何を考えているんだ、僕は!!!


「ちょっと待って!! 芹霞、いくら何でも…」


僕は抗するように、芹霞の露になった肩をやんわりと押し返して。

その感触が…。


駄目だ、考えるな!!!


そんな葛藤知らずして芹霞は、


「玲くん、首から胸にかけて、赤い斑点が凄いの!!! 血色の薔薇の痣みたいのが出来ている付近が特に!! 別に痒くも何でもないんだけれど、尋常じゃない数なの!!!」


「「あ……」」


僕と桜は同時に、一文字だけ呟いた。


「何だろ、ねえ、何だろ!!! 変な病気かな!!?」


………。


「そういえば"約束の地(カナン)"の機械室で、皆目を真っ赤にさせてたでしょう!!? 何か感染菌でもあったのかな!!? ねえ、何かな、何でこんな斑点だらけなの、あたし!!!」


やりすぎちゃったかな…。

ああ、やりすぎちゃったね…。

これじゃあ…本当に凄すぎるね…。


「何の病気!!? 玲くんお医者さんでしょう!!?」


芹霞は…真剣で。


「玲くん、よく見て? ちゃんと診察して!!?」


僕の手を取り、首筋に触らせる。


ああ、そういえば僕…。

芹霞の心臓の傷、検診してないかも…。


入院中、際どい診察に恥じらう君は、可愛かったね…。


どうでもいいことを思い出して。


いや。どうでもいいわけではないけれど。

手術した心臓の定期検診は、担当医としては忘れてはならぬ大切なことだけれど。


だけど――…。


「何で僕…こんなに邪な方に傾くようになったんだろう」


そう言いながら、僕のつけた赤い痕を触る僕。


――玲くん、発情するの、しないの!!?


「玲くん、どう!!?」


「はあ……。大丈夫だよ…芹霞。だからね…もうちょっと離れようね。桜の目が泳ぐ程、そんなぐいぐい体を押し付けるのはよそうね。

清く正しく美しく。

自信ないけど…君も自覚しようね」


僕は、溜息をついた。


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