シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「!!!!!」
建物自体はきちんと存在している。
だけど、芹霞が残るこの黄幡塾だけが、僕の結界の領域外となって…力が及ばないのは気のせいではなかった。
及ばないというのか、無効化されているというのか。
気配から芹霞の状況を探れない。
建物の見た目には変化がない。
ただ出入りする学生が居なくなっただけ。
透明な硝子の向こうには、まだ記憶にある殺風景な光景が見えるだけ。
僕達が立っても、自動ドアは開くことはなかった。
「何で開かないんだ?」
電源系統がやられた…というには、この部分の電気に乱れは感じない。
指先を入れて力で開けようとしても、硝子は微塵も動かないんだ。
「おかしいね、ボクも一緒に開けるよ」
僕の肩から降りた由香ちゃんと協力して、両側から硝子ドアを引き開けようとしたが無理だった。
「この硝子、砕こうかな」
イラっとした僕が外気功を使おうと、掌を硝子に近づけた時、
「あれ、師匠…神崎があっちから走ってくるよ!!! お~い、お~い!!!」
由香ちゃんがその場でぴょこぴょこ飛び跳ね、大きく手を振った。
「師匠…ね、師匠!!! 神崎…何抱えてるんだ!!? あれなに!!?」
芹霞の手にはカバン…ではなく、カバンと融合したクオンで。
「あのネコだよ。変身したんだ」
「何だって!!? 何だよ、あの奇っ怪な……って、ぐったりしてるぞ?」
クオンの性格がどんなに問題あろうとも、戦闘力は問題ない。
そのクオンがやられるだけの相手がいるということか!!?
そして芹霞の様子も奇妙だ。
後ろを振り返りながら走る芹霞の顔は強ばり、その顔色は悪く、さらには走り方がおかしい。
足を…怪我でもしたんだろうか。
「あの様子なら、逃げて…るのかな、神崎。何から? 師匠…見える? 神崎の後ろから何か来てる!!?」
目を凝らす僕は…見えたんだ。
「黄色い…蝶だ」
ひらひらと…舞い踊る、忌まわしき黄色の群れが。
そして同時に――
僕の視界が突如切り替わったんだ。
「ふへ!!? ボクには見えないぞ!!? というか、元より見えるのは師匠と神崎だけか、あの蝶は!!!」
「蝶はいる…。それに…勘違いでも疲れ目のせいでもなかった。ぶれて見えてたのが正しかったようだ。
3本の爪痕に内装は凄惨だ。その上に、その爪痕と黄色い蝶が…学生達の真紅の屍の山を築いている」
「何だって!!!?」
目を抉るのは…黄色い蝶。
首を落すのは…3本の爪痕。
見えないと繰り返す由香ちゃんの目に、僕は指を置き…僕の気を流し込んだ。
「なんじゃこりゃあああああ!!!」
気を同調させると、由香ちゃんも見えるようになったらしい。