シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


追い詰めるつもりはなかったと…今更それは言い訳になってしまうけれど、深い翳りの出来た睦月の横顔は、悲傷の情を色濃く出していて、俺が思っている以上の心の傷を受けている事実を知る。


「気持ち悪いだろう、私の身体…。 女に…なりたいんだけどね…」


憤りよりも、それは諦観であり自嘲であり。


「自分でも気持ち悪いよ。幾ら否定して見せたって、気持ち悪い存在には違わない」


いつもそうやって自分に言い聞かせてきたのだろうか。


「私は…"表"でね、"愛玩動物"として飼育されてきたんだ…。幼くて…出るとこ出て無くても…それしか、生きる術はなかった。此処に逃げて来れたのが私の救い。私は人間じゃない。おまけに、変な力まである。だから太陽の元を堂々歩いて、堂々と人を愛せるお前達とは…」


相容れない存在なのだと、そう結ぼうとしたのが判ったから。

そしてそれは、多分この場所の住人の言い分だと思ったから。


だから――…。


「あ…「あのさ…」


俺が口を開くより僅かに早く、煌が頭をガシガシ掻きながら言った。


複雑そうに歪められている煌の顔に浮かぶのは、


「お前が女だろうが男だろうが両方だろうが、別にどうでもいいんだけど」


嘆く睦月に対する戸惑いで。


「え?」


拍子抜けしたような睦月の声が向けられる。


「どっちに転んだってお前は"牛"には変らねえし。それに俺だって、いや…櫂も小猿もチビリスもゴボウも、人にはねえ力っていうもん持ってるし。

逆に俺がお前に聞きてえよ。男だとか女だとか…俺達と接するのにそれ必要?」


「必要というか…そんな問題じゃ…」

「おい、小猿。お前どう思う? この"牛"見て」

「正直、びっくりしたけど…気持ち悪いとは思わなかった。それに俺…昔紫茉とさ、渋谷で…酷い歯っ欠けのお爺さんが、薄い白髪を腰まで伸して、胸に何か詰めて、ふりふりのミニスカで堂々歩いてたの見たことあるし。あのインパクトに比べれば、全然。

いいじゃん、あんたは言わなきゃ女にしか見えないし。むしろ男と言われてびっくりしたよ、俺。そういう点では容姿に恵まれてるんじゃない?」

「め、恵まれてる? 私がかい?」


驚いて身体を仰け反らせた睦月に、翠は特に表情を変えずにこっくりと頷いた。

「今まで…散々罵倒され続けてはきたけれど、初めてだよ。恵まれてるなんて言われたの…」
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