シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
俺は笑いながら、睦月に言った。
「全てがお前の否定側にいるわけではない。それに…お前を拒絶した過去の時間は、刻々と変わり行く。いつまでも状況は昔のままとも限らない。
少なくとも俺達は、お前に俺達とコミュニケーションが取れる普通の"心"がありさえすればいいわけで、お前の肉体がどうかなんて気にならない。別にお前の身体と会話しているわけではないんだからな。
お前はただの睦月という女、それだけでいいだろう?」
「……あ……っ!!!」
睦月の目に…ぶわりと涙が溜まって零れ落ちた。
「久涅と…同じ顔して、同じ事を言うんだね…」
睦月は、笑いながら涙を手で拭う。
「久涅もさ、無効化の力で私の力を抑えて…『お前はただの小娘だ』って言ってくれたんだよ…」
嬉しかったと添えて、睦月は忍び泣いたんだ。
久涅がどんな酔狂でそんなことを言ったのかは判らない。
いままでの行動を見ていれば、同情という心にすら縁遠い。
しかし確実に此処の住人には受入れられている。
俺よりも。
それが何だか悔しくて。
「はは…おばあちゃん。何だろう…見せて…よかったかもしれない」
「睦月…そなた…」
「何かさ、隠すのって…しんどいんだ。ばれたらどういう反応されるかなって思うと、怖くてさ。居るんだね。久涅だけじゃなく、1人の人間として、私の心を見ようとしてくれる"表"の奴らがさ」
場は静まり返っていた。
少しずつ、空気が変っているのを感じ取る。
睦月の影響力を期待していたわけではない。
しかしもしも俺達の言葉が睦月の心を少しでも動かしたのであれば、苦しみの連鎖的な仲間である彼らにも、伝播したのだろう。
理屈ではない、睦月の心が。
逆に言えば、こんなことぐらいで睦月の喜びは大きく、それだけ、"表"に苦しめられてきたということを、俺は忘れてはならない。
「ねえ…耳を傾けてみないかい、皆。こいつらの言葉をさ。信じろとまでは言わないよ。だけど、違うだろう? 演技ではないもの、皆も感じるだろう?」
ざわざわと揺れる声。
「もう一度…夢を見てみようよ。久涅だって、そう言ってたじゃないか」
また…久涅か。
「それにさ、そこのオレンジが此処の出身なら…証明してるだろ? "表"と迎合出来ることを」
「しカしそレハ飼い慣ラサれたかラデ…」
「洗脳されタカらで…」
ざわざわ…。
否定的な声が聞こえてくる。
そこまで…甘くはなかったか。