シンデレラに玻璃の星冠をⅢ




「皆の者。何故この狂犬を秘密裏に治療し、2度も此処から出したか、判るか?」



それは夢路の言葉。



「そレハ"表"の刺客とシテ…」

「首を刎ねルトいう取り決メで…」


不思議に思っていたんだ。


何故睦月は、痣の少女の首を刎ねる=此処に運ばれたと、結びつけたのか。


恐らく"表"から運ばれた者を治療を施すには、それなりの対価が必要なのだろう。

治療に動くということだけでも難関で、更に上手く行ったとしても、そのまますんなりと"表"に返さず、"裏"の何かに役立てられるような取り決めでもあるのだろう。


もしかすれば此処で特殊な治療を施し、命だけは繋がったとしても、もう"表"に戻って生活出来ぬ姿態になっているのかもしれない。


なればこその殺戮道具…とも思える、恩讐のような対価。


煌の様に、美形な姿態のままで3度も出入り出来るのが、稀なのだろうと思う。


――皆の者。何故この狂犬を秘密裏に治療し、2度も此処から出したか、判るか?


………。


稀過ぎるのは、意味があるのか?



「この時期に"表"の蛆が、何故この者を食らい尽くさなかったか、判るか?」


一斉に…焦げそうなまでの真剣な眼差しを一身に受けた煌は、酷く狼狽した。



「この者は…ウジガミだ」



抑揚なく、しかし威厳ある声に、はっと…息を飲むような気配を感じる。



「ウジガミって何よ!!?」


煌の問いに夢路が薄く笑う。



「妾達の教典『妖蛆の秘密』における盟主」


「は!!!?」


「ああ。儀式を通じて…盟主ウジガミとの間に生まれたのがそなた」


「はあああああ!!?」


――それよか…櫂。今、芹霞のお袋が…"うじがみさま"って言ってた…。


ああ、8年前の悲劇が舞台となったあのゲームの中で、芹霞の母親が口にしたのは、



"氏神"ではなく――


"蛆神"、だったのか?



「何だよ、それは!!!」


「ふふふふふ」



夢路が袖を捲る。


そこに出て来たのは、黒い薔薇の刻印。

俺の首のものと同じもので。


首。



床に転がる芹霞の父親の頭が思い浮かぶ。


ああ。


彼の身体にもまた、同じ黒い薔薇の華が咲いていなかったか。



「話をしようか」


だとすれば。




神崎家は、何か関わっていたのだろうか。


――…煌と。
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