カプチーノ·カシス


ため息をつきながら帰り支度をし、扉に向かう途中で何か踏んづけた。

足をどけると、作業中に床に落ちたのであろう生豆(きまめ)が潰れていた。

グリーンコーヒーとも言われるその薄緑色の豆の無惨な姿を見て思った。


―――まるで、僕みたいだ。


コーヒー豆というのは、生豆のままでは苦くて渋い。

香りもどちらかというと不快なものだ。焙煎して初めて、あの独特の風味に変化して、美味しく飲むことができる。

僕の恋は、未だ生豆のように飲めたものじゃない。

そのうえ焙煎して豊かな芳香を発する前に、こんな風に潰れてしまいそうなほどに脆くて……


そこまで考えると切なさに胸が締め付けられ、僕はそれを振り切るように首を横に振ると、生豆を片づけて開発室を出た。


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