カプチーノ·カシス


「あと一分だ。もう行くよ……」


あたしは両手で顔を覆った。

課長の足音が遠ざかり、発車を知らせるメロディがホームに鳴り響く。

そしてドアが閉まる音がして……新幹線は、動き出した。


行っちゃった……

ホームに巻き起こった風があたしのスカートを揺らす。


そしてその風が連れてきたのは――

コーヒーの、香り。


誰よ……今はコーヒーの香りなんて嗅ぎたくないのに……

顔を上げて辺りを見回してみるけど、コーヒーを飲んでいる人なんて誰もいない。

いるのは、ベンチでスポーツ新聞を読む年配の男性と、次の新幹線を待つ賑やかな家族連れと……


駅弁の入ったビニールを手にぶらさげて立つ、サラリーマン。


「な、んで……」


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