カプチーノ·カシス


手を高く上げて、その力を抜くだけでいい。

そうすれば……カップは床に叩きつけられて割れる。

だけど――


「……っ」


たったそれだけのことが、あたしにはできなかった。

カップを交換し合った幸せな思い出までが壊れてしまう気がして……

どうしても、手を離すことができなかった。


「こうなると思ったから、残ってたんだ」


いつの間にか背後に立っていたハルが、あたしの手からカップを奪う。


「割らないで……」

「駄目だ」

「やだ、やめてよハル……」


あたしの制止を振り切って、ハルは二つのカップを同時に床に叩きつけた。

陶器の割れる儚い高音が室内に響いて、呆気なく割れたカップはいくつかのピースになって床に散らばった。

思わずしゃがみこんで破片を拾おうとするあたしの手を、ハルが強い力で掴む。



「――お前は下がってろ」



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