カプチーノ·カシス


「――遅れました!!」


勢いよく扉から入ってきたのは、同期の石原元基(イシハラ モトキ)。


「石原、もう冷めてるから難易度上がってるぞ?」

「うわぁ参ったなぁ……僕今週まだひとつしか当ててないのに」


色素の薄い髪、透き通るような白い肌、灰色の瞳。

日本人離れした綺麗な顔立ちの石原は、同期だけれどあたしよりふたつ年上。

家が会社から遠くていつもギリギリの時間にバイク通勤でやってくる彼も、あたしたちに続いてコーヒーの試飲を始めた。


「うーん、この酸味……キリマンですか?」

「冷めてるって言ったろ? 酸味が立つのはそのせいだ。正解はブルマン」


あぁ、また間違えた!と石原がうなだれる。

課長はそんな彼を叱るでもなく後片づけを始めた。

課長と石原とあたし。この三人で毎日仕事をしている。

人数が少ないのは、ここが“味覚が敏感でコーヒー好きの者”しかお呼びじゃないからだ。


< 3 / 349 >

この作品をシェア

pagetop