カプチーノ·カシス


入社してすぐの頃は、商品の包材の管理や発注なんかを担当する部署に居たあたしだけど、ある日突然上司に聞かれた。

「きみ、コーヒーは好きか?」って。

好きですけど、と素直に答えると、同じようにコーヒー好きの若い社員たちと一緒にこのコーヒー開発に連れて行かれ、簡単なテストをされた。


目の前に三つのコーヒーがあって、どれが一番美味しいと思うか。理由も併せて答えろというテストだった。

そのテストに正解したのはたったの二人。――あたしと、石原だ。

そしてあれよあれよと言う間にコーヒー開発に配属されて、今に至る。


それまでは課長と二人の女性社員で仕事をしていたらしいけど、そのうち一人は妊娠してカフェインは控えなければならないからと他課に異動。

もう一人はコーヒーの飲み過ぎで胃を壊してしまい、これまた異動になったらしい。

だから、答えたくなければ答えなくていいけど、妊娠の予定はないよね?と初めて課長に会ったときに聞かれた。

ほかのオジサン社員だったらセクハラで訴えてやりたくなる発言だったけど、課長があまりにすんなりと、無邪気に聞いてくるものだから、こちらも素直に答えてしまったのだ。

「そういう予定はありません」――って。

そして、それをきっかけあたしの目はいつだって課長を追いかけるようになってしまった。

まぁつまりは、一目惚れしてしまったのだ。


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