カプチーノ·カシス
その日、バーを出てあたしたちが向かったのは、いつものホテルではなかった。
『もう本名もばれたんだ。ヤるなら俺の部屋にしないか?』
ハルにそう言われて、彼の自宅に連れてこられたのだ。
暗くて外観はよくわからなかったけれど、とりあえずかなりの高層マンション。
中はエントランスからゴージャスつくりで、階数だけでなく家賃も高そうだということが伺えた。
「ハルって……何者?」
エレベーターに乗るや否や、あたしは思わずそう尋ねる。
だって、たとえハルがあたしより三年先輩だとしても、うちの会社のお給料なんてたかが知れてるし……
「……さあな」
思わせぶりな微笑を浮かべ、二十五階で止まったエレベーターからさっさと降りてしまうハル。
「ちょっと……待ってよ」
大きな歩幅についていけなくて、あたしは小走りでついて行く。