カプチーノ·カシス
突き当たりの部屋の前で止まったハルは、お財布からカードキーを取り出した。
「すごーい、カードキーなんて」
「別にすごかねぇだろ」
鼻で笑って扉を開けたハル。
そうして通された部屋は電気を点ける前から素敵な部屋なんだと言うことがわかった。
だって……こんな綺麗な夜景……
眼下に見えるのは、たくさんの光の粒。
それは連なる車のライトだったり、オフィスビルの規則正しく並んだ窓から漏れる明かりだったり。ビルの隙間から遠くに見える観覧車のカラフルな照明だったり……
あたしは大きな窓ガラスにへばりつくようにして、外の景色にしばらく見惚れていた。
「この部屋に連れて来た女は、お前が初めてだ」
いつの間にか隣に佇むハルがそう言ってあたしを見下ろす。
「嘘。誰にでもそう言うんでしょ。この夜景見せてそんなこと言われたら、普通の女の子は落ちるもんね」
あたしがからかうように言うと、ハルは一度下を向き、長い前髪をかきあげると窓の方を向いたままで呟いた。
「……そうだな。“普通の”女ならな」
……そう、あたしは普通じゃない。
ハルの彼女になりたくてここへ来たわけじゃない。
そしてそのことに罪悪感とか、もう感じなくなってる。