tender dragon Ⅰ
「ただいまー………え?」
その光景に安田さんはただただ驚いていて、あたしにも状況が分からない。
春斗の退院祝いをするんだよね?
だからみんな集まって、準備してたんでしょ?
それなのに、どうして希龍くんはあんなに焦って出ていってしまったの?
「あ……春斗っ、おかえり!」
芽衣は困惑しながらもあたしたち3人を家の中に招き入れる。
「ほらっ、入って入って」
「そ、そうだなっ」
芽衣と遼太くんはその場の空気をどうにかしようと必死になっていた。
「春斗っ、退院おめでと!」
「うわっ、すげ…」
綺麗に飾り付けられたリビング。机の上には料理がたくさん並んでいた。
何とも言えない空気なのは、みんな状況を把握できていないせい。
「あの、俺のためにありがとうございます。……希龍さん、何かあったんすか?」
不安気な春斗。
きっともう、退院祝いをできる雰囲気じゃないことくらい、分かってたんだ。
「…俺らにも分かんねぇんだよ。誰かから連絡が来て、そのまま何も言わずに出ていっちまった。」
「誰かって…?」
どうしても不安なのは、見たことのない希龍くんの焦った顔を見てしまったから。
「分かんねぇ。」
そんな希龍くんを見たからか、葉太もどことなく不安そうだった。
希龍くんはいつも気まぐれで、マイペースで、のんびりしてるのに。
いつもの希龍くんの様子からは考えられないくらい、焦っていた。