風に恋して
その日、エンツォが授業を終えて家に戻ると使用人が何人か真っ青になって震えていた。そして、何があったのかと問う前にそれは聞こえてきた。

『いやぁぁぁっ!やめて!誰か、だ――っ』

母親の――ヒメナの悲鳴。最後は誰かに押さえつけられたかのように途切れた。

「母さん!?」

ヒメナが長年、カリストに無理矢理抱かれているのは知っていた。それでも、こんな風に悲鳴を上げて抵抗することは1度だってなかった。

「坊ちゃま!」

使用人の制止を振り切り、階段を駆け上がる。その間にも、くぐもった悲鳴と楽しそうなざわめきが聞こえてきて嫌な予感に足が震えた。

「母さん!」

勢い良くカリストの寝室に入ったエンツォの目の前に広がっていたのは、見るに耐えない光景だった。ボロボロに破かれたドレス。布切れが床に散らばり、使用人が何人も母親に群がって、カリストがそれを楽しそうにソファに座って眺めている。

「な、にを……している!?」
「エンツォ、無粋な真似をするんじゃない。今からがいいところなのだ。それとも、お前も混ざりたいのか?」

信じられない父親の言葉と、使用人たちの卑猥な言葉に笑い声。耐えられなかった。いや、どうやって耐えればよかった?

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」

自分の身体の中から湧き上がる怒りに任せて、叫んだ。

何が起こったかなど、わからなかった。気づいたら、部屋は嵐の後のように散らかり、使用人たちは血まみれで倒れていて、自分が殺したのだと理解するまでに時間がかかった。
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