風に恋して
誰も何も言わなかった。

レオの腕の中、リアは先ほど恐ろしい言葉を呟き続けていたとは思えないほど、静かに規則正しく呼吸をして眠っている。寝顔にどこか幼さが残っているような気がするのは、涙の跡のせいだろうか。

そうして、どのくらい経っただろう。

レオはリアの身体を抱き上げてベッドに降ろした。髪飾りを外し、結っていた髪も解いてやる。真っ白なシーツに波打つ綺麗な栗色の髪。

「記憶だけではなかった、というわけか」

レオは思わず乾いた笑いを漏らした。

これは、明らかに呪いだ。リアが自らこの能力を使うことはない。何かがトリガーとなって、彼女がこの城へと来ることになった理由である特別な力――“赤い瞳”を使うようにインプットされている。

「レオ様……」

珍しく弱々しい声を出した主に、セストはどう声をかけたらいいのかわからないようで、視線を泳がせた。レオはフッと笑って首を振り、じっと眠るリアの顔を見つめた。

「リアを……よりによって“赤い瞳”の力を……っ、俺を!俺だけを苦しめればいい!殺せばいい!」

レオは吐き捨てるようにいい、グッと拳を握った。爪が食い込むほどに強く。

「レオ様。とりあえず、リア様に処置を施しますから……オビディエンザを解いていただけますか?」
「……あぁ」

セストに言われて、レオは長く息を吐いて心を落ち着けた。
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