囚われの華

遠い日の思い出

従業員用の出入り口に向かいつつ、考えるのは先ほど楠が言っていた水島専務のこと。

水島専務こと、水島蓮は水島頭取の長男で、遥もよく知る人物。

いや、よく知っていた人物だった。

数年前までなら・・・・・

中高一貫の名門私立校を首席で卒業後、有名大学に入学。

在学中に留学し、アメリカの大学を卒業し、帰国したエリートである。

帰国後、水島銀行に入行し数年で専務にまで上り詰めた。

頭取の息子という立場で得たのではなく、実力で上り詰めたのだ。

遥がここに勤め始めてから蓮と仕事、プライベートで関わったことはほぼ皆無に等しかった。

遥の所属する広報部の担当執行役員ではあったが、直接一緒に仕事をすることはない。

部長や課長クラスしか接点のない雲の上の人なのだ。

エレベーターを降りて従業員用の入り口にたどり着いた遥は目の前に佇む男性を見て立ちすくんでしまった。

目の前にいる人物こそ、水島蓮その人で。

蓮は遥を見つめ、

「遅かったじゃないか。」

と一言。

「もっ申し訳ありません。」

ビクッと震え、そういう遥に

「時間が勿体ない。行くぞ。乗れ。」

キーレスエントリーを操作し、解除すると助手席を開け、乗るように告げる。

蓮の愛車、BMWに乗るのは遥も初めてのことだった。
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