黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□
 
 
………………


…………


……


…ドンッ!


「…邪魔だ、転校生っ!
通路の真ん中なんかに突っ立ってんじゃねーよっ!」


俺が意識を取り戻して一番最初に感じたのは、誰かに突き飛ばされる感覚と、そんな怒声だった。

よろけて倒れそうになった俺は、とっさに側にあった灰色のシートの背もたれにつかまり、なんとか転倒を免れる。

俺の体を押しのけ、大慌てでバス前方に向かって走っていく、体格が大きく短髪の男子生徒。


…あれは、木瀬(きせ)…?


さっきの行動と、走っていく後ろ姿だけでわかる。

あんな大柄で、なおかついきなり人を突き飛ばすようなあんな粗暴なヤツは、[ 木瀬 誠二(きせせいじ)] しかいないと。

慌てきった様子でバス乗車口に向かって走る木瀬の姿を見ながら、俺は思った。

……さっきまで確かに意識を失っていた筈なのに、なんで俺は立ってるんだ……?


……さっきの夢か何かの中で、『シンタイハ スデニ ダッシュツスルタイセイニ ハイッテイマス』と聞こえたのは、このことなのか……?

……。


…実は、こんな体験は初めてじゃなかった。

2、3年前にも、プールで溺れて意識を失った時、やっぱりあんなような声が聞こえた後、気がつけばプールサイドに立っていた ことが……

…って、今はそんなことはどうだっていい。


…そんなことより、俺たちは…事故に……

…正確には、俺たちを乗せたこのバスは、崖から転落したはず……。


事故の衝撃のせいか、事故直前の記憶がおぼろげで、あまり定かではない。

俺は、状況を確認するために周囲を見回す。


…ここはもちろん、さっきまで乗っていた、大型バスの車内。

天井に設置された薄茶色の照明も生きており、自分の周囲だけを見れば、通常のバス内となんら変わりがない。

ただ、ところどころに、修学旅行のしおりとかペットボトルとか、とにかくそんな物が転がってはいるけど。

次に正面に目を向ける。


運転席上部に設置された照明が、無惨に砕けたフロントガラスを照らしていた。

フロントガラスは、運転席付近を中心とした、全体の1/4ほどが割れており、それが事故の衝撃を物語っていた。


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