黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□
あれはまだ、4月下旬の学校帰りのこと──。


「七夜!」


振り返れば、廊下の少し遠くに司の姿が見えた。

息を切らして、軽く走りながらこちらに向かって来る。

「そんなに慌ててどしたん?」

いつも通りの軽口を言う俺。

「はぁ、はぁ…。
ん…七夜と、一緒に帰りたかったから♪」

そんな俺の横に追いつき、ニコッと笑いかける司。

…これも毎度のことだが、司の無邪気な笑顔には、不覚にも少しドキッとさせられる。


…こんな無防備な笑顔見せやがって…。

…こいつの笑顔って、小さい頃から全然変わらないよな…。


そんな気持ちの悪い心のつぶやきを、胸の奥に押し隠す。

「んじゃ、一緒に帰ろっか? …裕也と夏樹は?」

裕也と夏樹というのは、この鳴神川中学校に転校してきて、本当に初日くらいにできた、俺の友だち。

「ああ。
裕也くんと夏樹なら、先にに帰ったよ?
なんか2人で、本屋さんに行くって」

「お前は一緒に行かなかったのか?」

「まあ、ね。
いきなり職員室に呼び出された七夜が、可哀想だったからさ?」

わざと恩着せがましくにやける司。


今、隣りで、嬉しそうに歩きながら話しているコイツは、俺の幼なじみ。

俺も幼少期はこの街に住んでいて、その頃は家が近所だった。

だから俺たちは、毎日のように一緒に遊んだ。

どこに行くにも何をするにも、コイツと一緒だった。

それが突然、この街から離れることになった。

そしてまた何年かして、ここに戻ってきたわけだ。


別れ際のことは、全く覚えていない。

ただ、この学校初めての登校日の朝。

『七夜が急にいなくなったから、オレ、本当に何日も泣いたんだぞ…!?』

再開した直後の司に、涙目でそう言われた。

転校早々に2人も友だちができたのも、司のおかげ。

司の友だちだった裕也と夏樹を、俺に紹介してくれたんだ。

…あ。

あの、初日からなぜか絡んできた、小うるさい小町屋を入れれば、友だちは今のところ全部で4人か。


「ね?」


不意に司が言った。

気がつけば、もうだいぶ使い慣れた、自分の下駄箱の近くまで来ていた。

玄関の大きなガラス窓に、澄み切った青空と、緑色に輝く学校の庭……それと、その緑を中央で分断する、茶色く光るアスファルトの舗装が映っている。


「七夜は、今度の修学旅行…どこに行きたいか決めた?」


「ん、俺?
俺はやっぱり、小さい頃にお前と行った……」


……。
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