黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□
◆それでも俺は、良雄たちに話しをするという決定を覆さなかった。


俺は小町屋の顔を見つめ返し、つとめて明るい表情をつくった。

「…ありがとう小町屋。
やばそうな雰囲気だったら、何もしないで戻ってくるよ」

そう言って、座席側の裕也の目の前に、一歩足を踏み出す。


裕也は不安げな表情で俺を見上げたが、何も言うことはなかった。

小町屋も司も、これ以上止めても無駄だと感じたのか、何も言わなかった。

そのまま、バスの中央通路に出る。


そして小町屋の横を通り過ぎようとした時、彼女は正面を向いたまま、つぶやくように言った。


「…どうなっても、知らないから」


俺は、その最終警告とも思える言葉を無視して、後部座席に向かい歩きだす。


……良雄たちは、バスの最後部の座席に陣取っていた。


通路を歩いていく最中、

「…まさか…あいつ…」

だとか、

「…おいおい…冗談だろ…」

だとかのひそひそ声が、両脇の座席から聞こえた。


…今更だが、俺は自分のとった行動にかなり後悔していた。


大見得を切ってここまで来てはみたものの、小町屋や周囲のこの反応…。


…もしかして、俺が今からやろうとしていることは…

…俺の想像をはるかに上回るくらい……やばいことなんじゃ……。


……正面を見れば、最後部の中央で足を組んで大笑いしている良雄の姿が、座席4つほど前にすでに見えている。



「…あ゙?」



!!


良雄が俺に気づいた…!


もう、今から引き返す…という選択はできない…

…気がする…。
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