実鳥森の少年の初恋
玄関をあけて「ただいま」
そう言いますが、いつものことで
まだ、お母さんは帰ってきていません。
お仕事から帰るのは5時過ぎです。

「母さんは、まだ仕事みたいだけど、どうぞ」
ジンが言います。

「おじゃまします」
マイは興味深そうにきょろきょろしています。
居間で、座布団をジンがすすめてくれます。

「ありがとう」

「お茶もってくるね」

「手伝うよ」

「いや、座ってていいよ。台所狭いから」
あせって言うジンです。

ジンが台所に行っている間に
居間の大きな花瓶に、きれいな不思議な色をした
コスモスがさしてあるのを見つけます。

「きれい、不思議な色ね?どこで買ったの?」
マイが台所のジンに声をかけます。

ジンがお茶をお盆に入れて運んできながら
「あ、それなんだ。見せたいものって。
きれいで不思議な色だろ?見たことない?」

「うん、こんな色のコスモス、初めてみたわ。
不思議な色ね」

「このコスモス、母さんが、マイのお店で
買ってきたって言ってたんだけど、
見てないんだね?」
ジンは、不思議そうに聞きました。

「え?うちの店に?見なかったわ。
私、いつも入荷するお花は見ていると
思うけれど、こんな色のコスモスは初めてよ」

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