ジルとの対話

俺は影だ。プラットフォームに
密やかに佇む影だ。
街は大きいが、己は街の影であり、とても小さい。けれど、確かに存在する。確実にいる。
俺はこの街の影だ。

影であり続ける事が、使命であるように生きていた。
下の道昼前に背中を見せる生き方、背徳の命はこの太陽はどの様に映ったのだろう。

ジルのグランドピアノの前にキースは、青空を仰いだ。

キースは白鍵を叩いた。案外に力がいる。レ…ド♯左手で、ベース音を思い出しながら、主旋律を自分の弾いたギターでやってみた。
「俺が作った曲なんだ。Aコードをオープンチューニングにしてたけど、このまま鍵盤通りしたら、はまってる。」
ジルはキースが死ぬほど嫌だったピアノの稽古が報われた瞬間に立ち合った。
「キース面白い。空を見てご覧。」
キースは天を仰いだ。自分の弾いた曲は、社会に意見する曲だった。空は、赤く叫びだしたようだった。
「ジル、あれは。」
キースは音楽と空がただらなぬシンクロニシティを彼自身だけがわかるディティールでまざまざと見せつけられ、ジルの真実と彼に対する畏怖を同時に知ることになった。
キースは、グランドピアノから弾かれたように立ち上がり、ジルと空を交互に見た。
ジルはピアノ椅子に座り穏やかな曲を弾いた。
「魔術師だって言ったろ。キースってば本当に懐疑的なんだね。」
ジルが音楽を奏でるにつれて、空は紫から緑色緑色から青へ色を戻した。


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