ジルとの対話

客間にだらりと座るキースは足を組んで我が家のように振る舞っている。
「やあ、僕らの影くん!久しぶり。何処へいってたんだい。」
ジルが両腕を広げキースを抱きしめた。
「ジル、俺は君の正体を見破る為に考えていたんだよ。懐かしさを感じたのは、君の屋根裏部屋のような屋敷だ。懐かしい引き取られた家を思いだした。」
キースは辺りを見渡した。
「そういえば、俺は生まれて間もなく、施設に預けられ、母と父の迎えを10歳の始め頃まで待っていた。俺は誕生日がなかった。ただ、背格好とテストで年齢というものを値札みたいにつけられた。しかし、嘘でも誕生日は嬉しいものだった。一緒にいる事が家族だと月並みに思うんだ。アランやアンナは施設の仲間じゃないが、一緒にいてくれた。過去をあれこれ探ろうとせず、新しい記憶と時間を伴に過ごした。それが真実より今の俺には必要だ。ジル、新しい世界が彼らにある。もしも、ジルが俺にここへとどまり神の真似事をしろと言うのならば、俺は自分でなくなる気がする。悪
いが、君の影として働くことは出来ない。」
キースはそこまで言ってしまうと、ソファから立ち上がり、背を向けた。
「キースがそう言うならと言いたいけど、君はもうデージーともともにある。永遠のかけらくらい。残して行ってくれないか。」
楽譜をキースに手渡し、ジルは腕を組んだ。
「これは。」
キースは眉をひそめて言った。
「君はレイン通りで僕に演奏会を頼んだろ。その礼が200ユーロじゃ足りないね。やってくれないか。演奏会の作曲を!」
ジルは笑顔でキースに言った。それは合点の行く説明だとキースは頷いた。
「しかしね、ジル俺はロック専門だから、保証出来ないね。君のご希望に添えるかな。」
キースは自分の髪の毛を撫でつけた。
「希望など最初からあるわけない!その頭の中は、僕には計り知らないのだから。いいね。」
ジルはキースに肩を寄せると、ピアノがある部屋に案内した。



< 21 / 34 >

この作品をシェア

pagetop