魅惑のくちびる

雅城とはその日以来、時々食事に行くようになった。

他の人にはあまり自分の恋愛話も話さないみたいだったけど、わたしには食事をしながら愚痴もこぼしていた。


「大塚さんは、黙って聞いてくれるから話しやすくて。ごめんな、みっともないよな」


そう言って申し訳なさそうな笑顔を作られると、余計に心が苦しくなったのを覚えている。




雅城は結局、1ヵ月後に田上さんとの恋に終止符を打った。

田上さんから『どうしても気持ちを戻す気になれない』と言われてしまったと苦笑いを浮かべた。


「でもさ。不思議なことにオレ、別れてもそんなに辛くないんだ」


その言葉の意味は、本当にわからなかったんだ。

わたしの存在があるからだよって、とうとう雅城に口に出させてしまうまで、どういう意味?ってずっと聞き返していた。
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