魅惑のくちびる

「おかえり!」

近頃は、雅城は仕事が忙しく、帰宅はいつもわたしより3時間も遅い日が続いている。

どんなに疲れていても、周りの人を気にして、自分はいつも一番最後に帰宅するようにしているのを知っていた。


昔からそうだった。

そんな気遣いができるからこそ、周りもみな慕ってついてくるし、連携も取りやすい。

チームリーダーを務めているのは、まさしく適任としかいいようがない。


雅城の大好物を愛情込めて作り、帰宅を待つ。

わたしができることを、精一杯提供することがわたしなりの愛情表現だ。


「おっ。今日は肉じゃが?」

「正解!ビールも冷えてるよ」

「あー腹減った、すぐに食べるよ。」


多少の失敗も厳しく指摘したりせず、おいしいと言って全部平らげてくれる。

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