-Lost Japan-失われし愛国
「は…やく。届けない…と──」


少女の視界は滲んだ汗で歪み、出血からか遠のく意識は朦朧としていき、徐々に繋ぎ止める事が困難になっていく。既に左肩を押さえる右手に力はなく、少女は自らの意思に反して体は地面に音なく倒れた。
視界の先には自らが命を奪った男性が横たわり、見開いたままの瞳は少女を映し、少女は視線に耐え切れずに瞼を閉じた。


──…雪の降り止まない寒空。
住む場所・食べる物すらなく過ぎ行く街人に乞おう物なら唾を吐き掛けられた。
そんな中、温かな手を差し伸べてくれた貴方に…ずっと。

少女の脳裏に浮かぶ言葉は、シャボン玉の様に弾けて意識は闇の中に消えていった。
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