secret name ~猫と私~
母とは理由が違うが、自分だってしたくて出世したわけではないのだ。

「うちの心配せんで。佳正の心配しりん。」

弟の佳正には、何も心配する事などないのだが、つい矛先を向けたくなった。
手元の書類の端を指でもてあそんでいると、母の溜め息が聞こえてくる。

『まさ君は何も心配いらんもん。子供もおるし、お嫁さん達とちょくちょく顔だしてくれるわ。』

佳乃と同じ“佳”の文字と読みを使うので、母は弟を下の文字を使って“まさ”と呼んでいた。

弟夫妻は実家からそう遠くない所に住んでいるので、顔も出しやすいだろう。

「顔だせ顔だせって、お母さんがうるさいんじゃんか。」

『いいじゃんか、お嫁さんには仲良くしてもらっとるもん。あんたも会いに来りん。まさくんとこの子可愛いし、はよ結婚したくなるに。』

孫を溺愛する両親のことだ。
誕生日や節句などのイベント毎に、呼び出しているに違いない。
気を遣う夫の実家で、その上小姑までいるとあっては、弟の妻に申し訳ない気分である。
弟は就職してから実家を出て会社の寮に入っていたし、親が呼ばなければ実家になど寄り付かない性格だったのに。

「すみませんね、相手もおらんで。ほいじゃね。」

苛立ちを隠せず、母の制止を無視して電話を切る。

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