matricaria
とある放課後の、いつもと変わらない廊下。

明日から始まる、数日の連休前の金曜日。




その日、何かが動いた。




その日の全部の授業が終わって、教室掃除の邪魔にならないように廊下に出た。

いつも放課後は廊下でみんなと話をしたり、ふざけ合ったりしていた。

今日は冬目がいなくて、采音と波ちゃん、水香ちゃんと話していた。

「波ちゃんっ!」

水香ちゃんが波ちゃんに向かって腕を広げた。

所謂女の子同士のスキンシップを求めて。

「そっちが来なよ」

水香ちゃんに広げられた腕には行こうとしないで、波ちゃんが言った。

それでも水香ちゃんは諦めないで、波ちゃんに手を広げ続ける。

「だってもうすぐ連休だよ。たぶん会わないだろうから、暫く会えないし!」

少し胸がざわつく。

その原因がわからないまま。

波ちゃんが、長いこと躊躇して。




水香ちゃんを抱きしめた。




その姿が、すごく格好よく見えた。

胸の奥がずしん、と重くなる感覚が痛い。

その痛みには、生傷を負った時のような熱はなくて、真ん中の一点を鋭く尖った氷が突き刺したように冷たかった。

本当にそんな感覚だった。

相反して頭と頬が熱くなる。

まるで涙が出る時のように。

涙は流さなかったけど、胸の痛みが尋常じゃなくて呼吸が止まってしまいそうだった。

自分の心の中がよくわからないまま、その光景を采音と笑った。

「水香ちゃん、よかったね」なんて言いながら。
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