甘いケーキは恋の罠
本当はつい先程通り過ぎた交差点を左に曲がった方が近道だったが、少しでも匠さんと一緒にいたかったため言わなかった。
「はい。お願いします。」
食事代を払ってもらう事は遠慮してしまうが、夜道を一人で歩く事が怖い私は送ってもらうことは拒否できない。
街灯とビルの光が照らす中匠さんと肩を並べて歩く。
互いに何も話さなかったが不思議と息苦しさはなかった。
もっと話しをして様々なことを匠さんに聞けば良いだろうが、この静かさが妙に心地よくて話しかけようとは思えない。
それは匠さんも同じなのだろうか、今日一日私に様々な話しをしてくれていたが今は何も話さずにただずっと前を見たまま進んでいる。
――この時がいつまでも続けば良いのに。
この心地の良い沈黙が続く事を願わずにはいられなかった。