Only You
 私は彼の背中でまたポロポロと涙を流した。

 人間って幸せすぎると切なくて泣けてしまうんだ。
 この幸せがちょっとした衝撃で手から逃げてしまいそうで……怖い。

 お願い、この幸せだけは私の手の中に留まっていて。
 私、もっと努力する。
 綺麗になるように頑張るし、魅力的な女になるように努力する。

 だから、私からこの素敵な人を奪わないで。


 きっと恋愛が成就した人は同じ気持ちになるのかもしれないね。
 幸せすぎて怖い。
 こういう気持ちは初めてで、彼とどんなふうにこれから付き合えばいいのか見えない。

 部屋に飾る花も一緒に綺麗だねって言えるようになるかな。
 ご飯を一緒に食べて、美味しいねって笑えるんだろうか。
 寝るときは相手の温もりを感じながら「おやすみ」ってキスしたりするんだろうか……。

 そんな事を考えただけで頭から湯気が出そうな状態。

 夢を見てるみたいにぼーっとなった私をベンチにストンと座らせて、笹嶋さんは「靴のサイズは?」って聞いてきた。
「23ですけど……」
「小さいね」
 ニコッと笑って、彼ははだしの私をおいて商店街の方へ走って行ってしまった。
 まさか新しい靴を買いにいってくれたんだろうか。

 20分ほどして、やっぱり彼は新しいサンダルを買ってきてくれた。
「これ、ヒールも低いし。多少塗れても色が落ちないんだって。はいてみて」
 シンデレラみたいに、そっとそのサンダルに足を入れると驚くほどぴったりでパンプスよりずっと足が楽だった。
「あ、すごく楽。それにサンダルのほうが見た目も可愛いですね!」
「うん、琴美は全部可愛いよ」
「違う!私なんか全然可愛くないですってば。もう……そんな恥ずかしいこと真顔で言わないで」
 私は照れ隠しに、ついついむくれてしまった。
 だって可愛いなんて生まれてこの方どれぐらい言われたか。
 数えられるほどしか無い気がする。
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