迷える狼 VS 迷える子羊
タオルのあの男の人に早く会いたくて

落ち着けと気持ちを言い聞かせるのと

裏腹に足は小走りになって行く。


ようやく、出会った工事現場について


・・・居るのかな?

・・・居てほしい・・・・。


願うように見渡すと・・・

居た!!

しばらく会えなかったから、もう会えないかもって

思ったりしたけど、会えた・・・会えた・・・。

姿が見れたことに胸が熱くなって居たけど、

そう言えば・・・こっからどうしよう・・・。

声・・どうやって声かけるの?

タオルのこと言えば・・・ううん、返さなくていいよって

言われちゃったし・・・。

自分で自分の行動をどうしたらいいのか分からず

オロオロしていたら


「どうした?また転んだりしたの?」


横からいきなり声をかけられた。

心臓が飛び出そうなほどびっくりして

「タオル!!」

そう叫んでしまった。

・・・だってタオルを返すことばっかり思ってたんだもん・・・。

じゃなくて!!

「あ・・いえ・・だいじょ・・・・」

大丈夫です。と言おうとした口が止まってしまった。

隣を振り向いたら、あの男の人!!


「どした?あ、そうだ!あの雨のとき風邪ひかんかったか?」


優しく低い声・・。

私のこと覚えてくれてたんだ・・・うれしい・・。

「はい・・・大丈夫です。あ・・あのあなたは・・」

「俺?俺は慣れてるから大丈夫。それに俺は風邪滅多にひかねぇよ。」

はは・・と声を上げて笑う。

風邪・・ひかなかったんだ・・よかった・・。

「それにしても、どした?もぅ暗いぞ?帰らなくていいのか?」

「あの・・・あの・・・」

「ん?」

あの・・あの・・ばかり繰り返す私の言葉を辛抱強く待ってくれてる・・・。

言って!動いて!私の口!!気持ちを伝えたい!

息を吸い込んで一気に

「あのあなたに会いに来たんです。」

「え・・俺に??」

「あ・・・タオル返しに・・・お借りしたので・・・」

私のばか!!

なんで余計なことまで言うの!

会いに来たで何で止めないの!

思わずがっくりした私に

「返さなくて大丈夫って言ったのに律儀だな。

でもありがとな・・・ってなんかいい匂いがするぞ」

「あ・・すみません。柔軟剤で・・」

「俺いつも適当に洗うだけだからなぁ~そんなの使ったことがねぇ・・」

感心するようにつぶやいていた。

< 9 / 10 >

この作品をシェア

pagetop