哀しき血脈~紅い菊の伝説3~
 飛び散った綿毛、粘り着く血、血、血。
 激しい息遣い、締め付けられる心臓、誰かが求める救済…。
 厚いカーテンで仕切られた部屋の中、悪夢に魘されて信は目覚めた。寝汗がびっしょりと彼のパジャマを濡らしている。
 呼吸が乱れていた。
 それは夢の中の人物の乱れとシンクロしていた。
(誰?)
 信は周囲に精神の触手を拡げて夢の主を捜した。誰かが血の記憶で苦しんでいる。信の心はそう告げていた。そして苦しめられている心は幼い者だとも告げていた。
 救わなければ、信は思った。
 血の記憶で苦しめられるのは自分だけでいい…。信は必死に声の主を捜した。
 しかし、その声は次第に遠のいていく。声の主の意識が途絶えようとしているのだ。このまま意識を失えばこの記憶は深いトラウマになる。血の記憶は見逃してはくれない。心の奥に深く食い込み、根差して、生きていく者を苦しめる。
 信もまた同じ記憶に苦しめられていた。
 遠い昔、目の前で繰り広げられた惨劇…。 逃れられない記憶…。
 信の放った精神の触手は次第に一つの方向に纏まっていく。閑静な住宅街、同じような広さの土地に似たような造りの家々が並ぶ。その中の一件、白い壁に赤い屋根が乗る。その二階、二段ベッドの上、一人の女の子が魘されている。
 信の触手は静かにその子に近づいていき、額に触れる。その子の記憶がどっと流れ込んでくる。
 誰もいない校庭、充満する鉄の味のような匂い。纏わり付いてくる赤い粘液。それらが深くその子の心に入り込もうとする。
 信はその尻尾を掴むと強引に引き戻す。
『それ以上、先には行かせないよ』
 信はその先で震えている女の子の心に向かってウィンクをした。
『あなたは?』
 怯える女の子は信に向かっていう。
『大丈夫、君の味方だ』
 信はそう言うと長く伸びた爪で血の記憶を引き裂いた。それは断末魔の悲鳴を上げて司法に散っていった。記憶は消すことは出来ないが、これ以上この子を苦しめることはない。 信はそう確信して女の子の方に向いた。
 彼女はまだ震えている。
『もう平気だよ。怖いことは夢が食べてくれたから』
 信は微笑みながら女の子に近づいていく。『本当?』
『ああ、嘘は言わないよ』
 信は微笑みながら女の子の額に手を置いた。
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